岩手県農業会議


「新たな経営対策に対応した農業経営の確立と農業委員の役割」岩手大学農学部 木村伸男教授


木村教授
木村教授
  1. 農業現場にとって21世紀農政はどう変わったか(はじめに)
    1. 産業政策から食料政策・産業政策・地域政策へ
      • 平成11年「食料・農業・農村基本法」では、国民生活の安定向上及び国民経済の健全な発展を目的とし、その基本理念として、(1)食料の安定供給の確保、(2)多面的機能の発揮、(3)農業の持続的な発展、(4)農村の振興、をあげている。
      • 平成17年「経営所得安定対策等大綱」では、(1)品目横断的経営安定対策、(2)米政策改革推進対策、(3)農地・水・環境保全向上対策、を決定し、農地・水・環境保全向上対策については、地域振興対策として位置づける。
    2. 水田農業の管理主体が国から農業者、農業団体へ
      • 平成6年の「食糧管理法」から「新食糧法」への転換による米等に対する国家の直接管理から間接管理へ。
      • 平成14年「米政策改革基本大綱」では、農業者や産地が自らの判断により適量の米生産を行う等、主体的に需給調整を行う。
      • 平成17年「経営所得安定対策等大綱」では、平成19年産から「新たな需給調整システム」へ移行するが、ここでは、「国をはじめ、行政による生産目標数量の配分は行わないが、国による需要見通し等の需給に関する情報提供の基づき、農業・農業者団体が主体的に需給調整を実施」する。
    3. 農家育成から経営体育成へ
      • 平成4年「新しい食料・農業・農村政策の方向(新農政プラン)」で、農業政策として、経営感覚に優れた効率的で安定的な経営体を育成するとした。
      • 平成17年「21世紀新農政の推進について」では、やる気と能力のある経営者が中心となった経営構造の確立を推進する。
    4. 生産起点から消費起点へ
      • 平成11年「食料・農業・農村基本法」では、消費者の需要に即した農業生産の推進を行う。
      • 平成14年「米政策改革大綱」で、米作りのあるべき姿について、市場を通じて需要動向を敏感に感じ取り、売れる米づくりを行うことを基本とし、多様な消費者ニーズを起点とし、安定的供給が行われる消費者重視・市場重視の米づくりを行う。
    5. 県・市町村の農政展開から協議会中心の農政展開へ
      • 地方分権の動き、国・地方財政の三位一体改革
      • 平成14年「米政策改革基本大綱」で、地域水田農業ビジョンは、都道府県等関係機関と連携して、地域の関係者からなる地域水田農業振興協議会が作成し、関係者が一体となって着実に推進する。
      • 平成17年「経営所得安定対策等大綱」、農地・水・環境保全向上対策は、地域協議会が事業主体となって行う。
  2. 現代農政における農業委員会と農業委員の役割−農業委員業務必携(2006年版)より−
    1. 農業委員会の3つの基本的性格
      • 農地行政を担う行政委員会
        • 農地の売買・貸借などの権利移動や農地転用に伴う農地法等の許認可業務を中心とした農地行政を担う。農地の番人。
      • 地域農業の振興と構造政策の推進組織
        • 地域農業の振興や地域の活性化の推進を図る。また、担い手に農地利用を集積しその経営確立を支援する構造政策の推進や遊休農地・耕作放棄地の解消に努める。
      • 農業者の公的代表組織
        • 農業者の公的代表組織である。
    2. 農業委員会の4つの役割
      • 認定農業者等の地域の担い手育成
      • 認定農業者等への農地利用集積
      • 遊休農地の発生防止・解消
      • 集落営農の組織化・法人化
    3. 品目横断的経営安定対策での農業委員会の役割
      • 対象の内容と対応について、地域の農業者への周知徹底
      • 対象農業者の絞り込みと加入に向けた要件充足の支援
      • 担い手が不足している地域における対策の受け皿としての集落営農の組織化・法人化の取組を支援
  3. 農業委員の意識改革の方向
    1. 現代農政をどうみるか
      • 主人公は農業者・農業者団体、国等は支援者
      • 国等は、担い手の育成と地域を支える基盤の振興を集中支援
      • 担い手は経営体(認定農業者、集落型経営体など)
      • 経営体の育成は、地域水田ビジョン等で明確化
      • 米政策改革では「産地づくり交付金」、品目横断的経営安定対策では「諸外国との生産条件格差是正交付金」と「収入変動に影響緩和交付金」で支援
    2. これからの農業、農業経営をどうみるか
      • 家業として農業を営む農家とビジネスとして農業を営む農業経営体との分離
      • 家業はなりわい・生活、ビジネスは社会の必要性を事業化、仕事としたもの
      • ビジネス界では、需要・消費・顧客ニーズがあって生産がある
      • ビジネスのあり方は、(1)だれの、(2)どんなニーズに対し、(3)いかなる流通によって、(4)どんな技術の下で、行うかによって決まる
      • 農地は、家業の装置から社会の必要性(社会的価値)を生み出す装置へ
      • 農という産業を家が担う時代から経営が担う時代へ
    3. これからの農業者をどうみるか
      • 生産者から農業経営者へ
      • 経営者には、(1)企業者機能(改革能力)、(2)経営者機能(管理能力)、(3)環境対応機能(外部対応能力)の3つの機能が必要
      • 経営者は、社会的使命をもち、社会的責任を果たす
    4. これからの地域をどうみるか
      • 地域には地域の思い、ゆめ、ビジョンがある
      • 地域には社会が望むもの・サービスを生み出す仕事がある
      • 地域では、いろいろな事業・仕事が連携する
      • 地域は、地域産業の発展のセフティーネット
  4. 地域リーダーとしての望ましい農業委員
    1. 地域の現状を的確に把握
      • 経営者機能が地域にあるか
      • 意欲的に農業に取り組もうとする人がいるか
      • 5年、10年先から現在を見る
        • 例)農業者の年齢、固定資産の耐用年数
      • 各農業者の直面する問題を把握
    2. 情報の収集と解釈
      • 外の世界の異質情報を収集
      • 年々新しい農政情報を収集、農政情報は即交付金につながる
      • 市場・取引の場には必要な異質情報がいっぱいある
      • 異質情報を地域にあわせて解釈して提供
    3. 戦略構想力を持つ
      • 地域への思い、ゆめ、ビジョンを持って、地域での新しい仕事を起こす
      • 地域の特色(個性、長所、強み等)を社会のジーズに合わせて活かす
      • 地域を単位にチョボチョボ資源を組み合わせて新しい価値を構想する
      • 地域の仕事を消費までつなげて設計する
    4. 調整・合意形成と実行力を持つ
      • 調整・合意形成での創意工夫
        • 例)説得の方法:(1)ビジョンで、(2)必然性・論理で、(3)話術で、(4)利害で、(5)しがらみで、(6)力で、(7)心理操作で
      • 土地(個人財産)の流動化には強力な力と決断が必要
        • 例)1集落1農場の説得:(1)集落の将来ビジョン、(2)個人で説得、(3)親戚・知人による説得、(4)脅迫、(5)集団圧力
  5. おわりに
    • 地域では、品目横断的経営安定対策加入申し込みが開始されます。地域ビジョンを今一度見直し、農業委員のゆめ、思いを具体化しましょう。

関連項目